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E-Bookを本にする“エスプレッソ製本機”の可能性

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E-Bookを逆に本にする米国のOn Demand Books社のEspresso Book Machine (EBM)は、図書館や大学、書店や公共機関を中心に普及を始めたようだ。しかし、創業者のジェイソン・エプスタインの本来の構想は「本のATM」としてコーヒーショップなど身近な場所に置かれることを考えていた。最近、グリーン・ビジネスに関するWebサイト (Going Green)で、EBSを街中に導入してサービスしているシアトルのThird Place Booksという書店についてのレポートを読むことができた(@minoguchi さんに感謝)。これを機会に、インスタント製本の可能性についても少し考えてみたい。

300ページの本が4分以下で完成

EBMはプリンタと製本機から構成され、プリンタ部分は京セラやゼロックスのマシンを組込んでいる。同社の独自技術は、主にそれらと一体になって稼働する製本機とEspressNet と称する管理ソフトウェアということになる。製本や化粧断ちなどに関する6件の特許を保持している。現在のEBM 2.0は、構成により75,000~95,000ドルという価格レンジだが、量産ペースに乗れば価格を大きく下げられる可能性も十分にあるだろう。製品の詳細は同社資料で確認できるが、入稿はオンラインまたはオンサイトで可能で、後者の場合はCD-ROMやフラッシュメモリなども受け容れる。ファイル形式は表紙、本文ともPDFで統一している。

用紙はA4またはレターサイズ(断裁サイズは可変)で40~830ページを扱い、表紙用にはタブロイドとA3サイズを使用できる。本体のサイズは115.8cm (W)、82.2cm (D)、137.1cm (H)、本体重量 362.9kg と、かなりのコンパクト化に成功している。注目の制作スピードだが、カタログ性能では、300ページの本が4分以下、ということになっている。ミシガン大学などでは$0.06/ページの料金でサービスしているということな ので、日本円で1600円前後となる。

Going Greenによれば、Third Place Books (以下TPB) がEBMを導入することにしたのは、サイズが小型化して置き場所に困らなくなったこと、それにGoogleやIngram Book Companyなどから提供されるE-Bookが、著作権付で80万点、パブリックドメインで数100万点に達し、十分な需要が見込めると判断したのが理由のようだ。米国では書店の減少が問題となっており、E-Readerなどのユーザーでなければ、通販書店の配送を待たねばならない。また、研究者が歴史的文献のPDFファイルをオンラインで入手したとしても、冊子として読みたいというニーズは大きい。また、今回のハイチ地震に際しては、GoogleがEBMのオーナーと連携して国際医療援助団のためにクレオール語の辞典を500部印刷して寄贈したが、TPBも50冊を受け持ち、3日間(金→月)で完了したという。

筆者の関心は採算性だ。TPBは、通常の書籍販売も行っているが、EBMでの事業は、(1) パブリックドメイン、(2)書作権設定書籍、 (3) 自費出版に分かれる。(2)と(3)のコスト/収益構造は異なり、前者は出版社が価格を設定できるので仕入コストは最も高い。Google経由の(1)はコストは安いが、収益性が最も高いのは自費出版ということになる。同社のロバート・シンデラー氏 (Sindelar)によると、組合せにもよるが、年間1~1.2万冊で採算が取れるという。第1世代機を導入したカナダのアルバータ大学も自費出版を扱っているが、初年度で1.5万冊を生産した。仮に300日稼働とすると、1日40冊。1冊10ドルとしても、売上は10万ドル以上ということになる。マシンをリースすれば月2,500ドルくらいだろうか。

TPBでは、表紙デザイン、レイアウト、判型、用紙その他で自費出版者を支援している。これには書店としての経験が役立っており、消費者に訴求する本づくりをアドバイスできるとしている。自費出版市場での競合には、ライティングからオンライン出版、プリント出版、販売を一括してサポートするオンラインサービスが存在しており、一定の部数以上ではそちらが優位にある。EBMを使った自費出版は100冊以下なら確実に有効だろう。

E-Bookは出版と軽印刷の再生につながる?

10年ほど前まで、日本では「軽印刷」という業態があった。企業、官公庁、大学、学校から個人までを顧客とし、報告書、冊子や広告チラシ、名刺などの、小ロットで簡易な印刷需要に短納期で対応していた。大手の印刷会社の従業員が退職後に営むことも多く、印刷産業のエコシステムでは重要な役割を果たしていたと言える。軽印刷の需要は、一部がオンデマンド印刷やオンライン入稿による印刷サービスに移行した以外は、オフィスのプリンタやビジネスコンビニに吸収されてしまった。

筆者は1990年当時、数百部のニューズレターを発行していた関係で、ゼロックス社のDocuTechやIndigo E-Printなどのオンデマンド印刷技術の発展(低価格化、高速化)に大いに期待し、4色のE-Printを使ったサービスを利用していたが、価格は下がらず、普及もしなかった。発注側 (企業、小出版)でのDTPの成熟が遅れていたのが理由なのか、その他にも大きな理由があったのかはよくわかならない。技術進化の障害は、おそらく製本にあり、数百部というロットでは一度に4~16ページを印刷できるオフセット印刷機と製本機の組合せとは勝負にならなかったのだと推察される。1部単位の製本を高速化するのは、どうみても難しい。製本がボトルネックになると、印刷が高速でも対応できない。

E-Bookの時代にも製本は無用なものではない、ということを示したのが、2003年創業のOn Demand Books社のEBMの登場 (2006)だった。旧世代のオンデマンド印刷機とは違って、ロットを追わず、1冊の本の高速製本に集中しているのが最大の特徴だ。オフィスプリンタと競合するようだが、オフィスプリンタの出力を手製本しようとすると、かなりの作業が必要となるから、平綴じ製本機能が自動で提供されるメリットは大きい。EBMは2007年のTime誌のBest Inventionに選出されている。

印刷本のメリットは山ほどある。欠点は、返本と在庫だ。この2つが資源を浪費し、出版社の経営を圧迫する。不況期にはとくに出版活動全体に悪循環をもたらし、市場も荒廃する。印刷会社はその余波を受けてきた。E-Book+製本のサービスによって本が売れて採算が取れるならば、出版社にも印刷会社にも干天の慈雨となるのは間違いない。EBMあるいは(インスタント印刷製本)の最大の魅力は、E-Bookと印刷本の両立を、最も効率的に実現するかもしれないことだ。E-Readerがまだ万人のものではないとしても、誰でもその恩恵を享受できる。出版社は本の電子化を加速する動機になるだろう。版権売買が活発化し、著作権切れの歴史的出版物の電子化も進むだろう。すべては経済性とビジネスモデルにかかっている。日本の出版社、書店、印刷会社のチャレンジが待たれる。 (鎌田、02/16/2010)

参考記事・資料

Third Place Books – Hot Off the Press, By Gail Nickel-Kailing, Going Green, 2/10/2010

Espresso versus Kindle – the Battle for Books, By Gail Nickel-Kailing, Going Green, 5/28/2009

<Press Release> Top publishers exploring the latest print on demand book model with Lightning Source Espresso Book Machine pilot program, By Lightning Source, 4/16/2009

オンデマンド印刷は、E-Bookの時代にも無用なものだろうか。そうではないようだ、ということを示したのが、2003年創業のOn Demand Books社のEspresso Book Machine (EBM)の登場 (2006)だ。オンラインライブラリにある書籍を、極少ロット(ほぼ1冊)で印刷・製本・断裁するための専用機である。旧世代のオンデマンド印刷機とは違って、ロットを追わず、たかだか1冊の本の出力に集中している。オフィスプリンタと競合するようだが、オフィスプリンタの出力を製本しようとすると、かなりの手作業が必要となるから、平綴じ製本機能が自動で提供されるメリットは大きい。カタログ性能では、300ページの本が4分以下、ということになっている。ミシガン大学などでは$0.06/ページの料金でサービスしているということなので、日本円で1600円前後となる。Googleなどのフリーコンテンツの印刷需要が多いことを考えると、とてもリーズナブルだ。

EBMは、大学、公共図書館、公共機関などを中心に導入が進んでいるが、


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